2003年3月 8日

ガウデアムス(~3月2日)

 自宅で一泊してそのままロッテルダムへ。今回受けるのはガウデアムスという団体が主催する現代音楽演奏コンクールで、どの楽器でも参加でき、またソロから12人のアンサンブルまでの編成で受けることが出来る、極めて自由度の高いコンクール。今回は90組がエントリー、内70組が実際に一次予選に臨んだ。一次は審査員によるプログラム選択でペンデレツキのカプリチオとインプロヴィゼーション。根拠のない確信で一次ではこの曲を吹かないと思っていたので(ダメだ)あまり準備もせず、個人的にあまり満足できる出来ではなかった。4日間の一次予選中の初日に吹いたので、結果待ちをしながら他の曲と、来週吹くヴォーン・ウィリアムズのコンチェルトの練習。いつも思うのだけれど、こういった「明日吹くかどうかようわからん曲」を練習することは結構辛い。
 前回書いたように、新しく譜読みを始めた曲のうちの一曲がどうしてもこのコンクール向けでなかったので、即興とヴォワ・キャプティヴに差し替える。プログラムは60分以上、内2曲はオランダ人の(若しくはオランダ在住の)作曲家の曲、3曲以上が90年以降にかかれたもの、という規定があって、どの楽器にしてもなかなかプログラミングが難しそうだった。
 何とかかんとか一次を通過(やばかった)。16人が2日間で2回演奏する。一日目は自薦のプログラム(マレシュ/ティテューブ、松平/シミュレーション)、二日目は審査員の選んだプログラム(ビュッケ/ヴォワ・キャプティヴ、インプロヴィゼーション)。2日とも概ね上手くいったと思う。ヴォワ・キャプティヴはまだまだ練習の余地があるけれども、本番前のセッティング・バランスのこなし方など、本番を通過しないとどうにもならない部分もあるので、これからも積極的に取り上げるべき。
 二次後からは時間もあって他の団体の演奏も結構聴けたんだけれど、今回のコンクールは流石に色んなところから色んな人が集まってきていて、それぞれにとても面白かった。こういう感動はやはりコンクールの一つの大きな収穫なんだなと思う。特にまだ若いキューバ人のピアニストが演奏したシェーンベルグの6つの小品は「こういうアプローチがあったか」と膝を打つような説得力と音楽性で非常に印象に残った。
 そして結果発表。ファイナルの前に今年度の特別賞(即興)を選ぶことになったとのアナウンスの後、自分の名前が。正直な話即興は本当に準備していなかったので(まあ即興なんだから当たり前なんだけれど)ちょっと意外だったんだけれど、光栄で嬉しかった。ファイナルには進めなかったけれど、同じ演奏会で受賞記念の即興もやらせてもらえて、非常に楽しかった。
 今回のコンクールでは本当に様々なスタイルの演奏があって、そういった人々の演奏を聴き、話す機会があったことは非常に刺激になった。一方、自分自身の今後の課題は、それぞれの曲をより精確に演奏できる基礎能力、幅広いスタイルのレパートリーの開拓、そしてなぜかやたらと多いソロとライブエレクトロニクスの曲の演奏のためにその方面の知識を増やすこと、といったことになるだろう。演奏会の翌日パリに帰って、コンチェルトの練習。

2003年3月 7日

ベジエ忘れ物紀行(~2月22日)

 二月第一週第二週はオランダのコンクールの譜読みを重点的に。今回初めてさらう曲は2曲だけなのだけれど、これらが結構厄介。一つはテューバは開放で吹いたまま足と手でリズムを打つもので、トリック自体は慣れの問題なのだけれど、自然倍音の上のほうを使いまくっている曲なので、全体をまとめるという意味でのコントロールが難しい。もう一曲は音高の変化がほとんどなく、音量、音色の変化で聞かせる曲で、コンクールで「魅せる」という意味では非常に難しい(前者の曲はあまりにもリスクが多すぎて結局即興などと差し替えたのだけれど、これはまた後の話)。例によって時間がないので、フィナーレで打ち込んで大体の概要、取りにくい音程の把握に努める。改めて実感したけれどある種の曲はこのように楽譜に書いていることを機械的に正確な形でまず把握することで、後の解釈=パーソナライズが非常にはっきりと方向付けすることが出来ると思う。
 第三週からは南仏ベジエのフェスティバル。低音楽器のフェスティバルが開かれていて、今年はその一環としてうちの学校のテューバのクラスの演奏会が行われる。この中の一つのコンサートで地元の学校の吹奏楽とグレッグソンのコンチェルトを吹くことになっている。コンクールも来週に迫っているので、クラスのほうの演奏会はなるべく出ないで(非協力的)、下り番の時間を準備に当てる。譜読みと各曲の調整で結構手一杯なので、グレッグソンは細かく分解して前回の基礎練習の延長線上の練習を行う。
 テューバという楽器でコンチェルトを吹くことは結構稀なんだけれど(当たり前だ)、ピアノ伴奏と違って後ろに大勢の奏者がいることはメンタル的にもフィジカル的にも全く別の曲を別のアプローチで吹いている感がある。ブレスの位置も多めになるし、全ての場所において表現をかなり誇張しないと、オーケストラにも聴衆にも「今行われていること」の把握が難しい。特にテューバは元々が伴奏楽器なので、その度合いはヴァイオリンやピアノのそれよりも大きいと思う。練習一回でもかなり消耗が激しい。と同時に、演奏会でいわゆる「協奏曲」をピアノ伴奏でやる場合の準備に、「オーケストラとやる場合にはもっとこうしなければならないから」というアプローチは一考の余地があるように感じた。それはそれ、これはこれ。リダクションも含めて、ピアノとソロのデュオという形に再構築する必要があると思う。
 週末が本番だったんだけれど、色々と準備することが多かったせいもあって本番当日にカバンをマクドナルドに置き忘れる。中にパスポートやら切符やらが入っていて、ジェネラルの合間を縫って町中を探し回る羽目に。幸い午後になって店で発見されてほとんどの物は回収できたんだけれど(ポケットPCは盗られた)、もうくたくたになってしまった。その微妙な脱力感のせいか本番は上手く行ったんだけれど。この週は非常に忘れ物の多い週で、前述のカバンをはじめ、楽譜、マフラーなど連日のように紛失しては探し回るという有様。忘れ物をしていないか10回くらい確認して、パリに戻る(それでもしてるような気がするんだけど)。

2003年3月 6日

再び基礎練習。(~2月2日)

 またまた年末進行が続いていて、ようやく一息ついたので総括。
 1月後半から2月にかけてはルーアンのオペラのエキストラ。曲はヴァーグナーのトリスタンとイゾルデの前奏曲。2月末のコンクールまではまだ少し時間があるので、もう一度基礎的な奏法を見直すことに。本当は最近アップした四分音の練習をしようと思っていたんだけれど、四分音の基本となるべき普通の音が上手くコントロールできていないと、その間の音程を取っていくことは非常に困難だからだ。以前より中音域の音程がうわずる癖があり、それをいちいち唇でコントロールしながら吹いていたので、この機会に一つ一つ見直してみることに。どういうわけか音程が安定しない音は生の音をベルの近くで吹いていて音程が合っているように感じても、部屋やホールの残響で返って来る音は高くうわずっている。方法はいたってシンプルで、一つの音を短く吹き、何回も繰り返して響きを確認する。長めの音にしないのは吹いている間に本来あるべきポジションからずれてくるのを防ぐため。ある程度確率が上がってきた時点で長さ、大きさにヴァリエーションをつけていく。練習を行う時点で気をつけるのは本当に基本的な点で、口の中をなるべく大きめに取る、ブレスを深く取る、体に無理な緊張をつくらない、といった事なんだけれど、これらを「本当に」実行するのはなかなか難しい(例えば、肩が緊張していたとして、それをリラックスさせることによって逆の方向に緊張が作られることもあるからだ)。もともと長い間で作られた癖なので、よい方向に持っていくのにはかなり時間がかかるし、現時点ではかなりの違和感もあるのだけれど、一時間くらいこの練習をやっていると、いくつかの音ではかなりの違いが見られる。もう一点気をつけるべきことは、それら一つ一つの音の吹き方を全体の音域の中で一貫性を持たせること。ある音と別の音がそれぞれに上手くコントロールできても、繋ぐときに大きな緊張を強いられるのであれば、それらのポジションは間違った道筋への道標になってしまう。
 2月には入るとコンクールとコンチェルトの準備でまたこの類の練習と疎遠になってしまうけれど、3月以降に重点的にやるべき練習。