2003年4月15日

シェイクダウン

 Zoo Muziqueが終わると学校のほうもヴァカンスになっていて、しかも次の演奏会がキャンセルになったため、この期間を利用してC管を吹き始めることに。F1で言うところのシェイクダウンですね。
 C 管は前回の日記に書いたようについ最近買ったんだけれど-恥ずかしながら今まで持ってなかった-、選んだ時もちょっと情けない話があった。楽器を買うまでは学校のBSを吹いていたんだけれど、結構大きくて扱いにくかった。音は好きだし、結構吹きやすいんだけれど、日頃の移動のことも考えてワンサイズ小さいものがあればなぁと思っていたわけだ(テューバ吹きの風上に置けない奴だ)。というわけでお金の算段もついて、楽器店に選びに行ったんだけれど、元々が楽器のメーカーやモデルに恐ろしく疎いので(テューバ吹きの風上に置けない奴だ)、そこにあった楽器を全部吹いてみて、好みと値段でバッと決めたら学校のとまったく同じモデルだったという話(テューバ吹きの風上に置けない奴だ)。しかも選んだ時は「うん、これは学校のより軽い」とか思ってたわけだから世話ないですね。
 というわけで、先週まではとてもゆっくり吹いている時間がなかったので、これから暫くはF管も含めて基礎に重点をおいた練習。C管はとにかくきれいに鳴らす、慣れるということを第一に考えて、ゆっくりとしたエクササイズ。ロジャー・ボボの教本の初めの部分と、ウェスリー・ジェイコブスのロウトーン・スタディズの初めの部分、加えていくつかのオーケストラ・スタディをよく聴きながら行う。まずは丁寧に綺麗に吹く習慣をつけるのが目的なので、あえてテンポのことなどは考えない。
 F管は基礎練習の日誌をつけ始めて2年になるんだけれど、今までの練習内容を振り返るとスラー、タンギングの練習が圧倒的に不足しているので、とりあえずスラーに関して暫く重点的に練習。ヒルガースのメトードはスラーに関して多くのエクササイズが掲載されているので、この中のものを一時間みっちりとやることに。例によってどちらもはじめはトホホな感じだけれど、とにかく2週間は続けてみて検証してみようと思う。曲は6月に向けて何曲かあるんだけれど、部分部分で拾っていって練習。

2003年4月14日

Zoo Muzique(~4月6日)

 コンチェルトの後は一転して四月頭までテアトルの仕事。今回はジャック・ルボティエの「zoo muzique」というスペクタクル。20人くらいの音楽家、ダンサー、俳優、ジャグラー、作曲家がそれぞれ檻-といってもがちがちに出られなくなっているものじゃなくて、あくまで檻の様なもの-に入って決められた時間に演技-演奏する、というちょっと変わったもの。途中で演奏・演技するものは全て(全部で80曲!)彼が作曲したもので、大体においてテクストの入った、シアター的なものである。個人個人が持っている曲は大体4曲くらい、トータルで10分足らずなのだが、その曲間にやる動作もかなり細かく決められていて(例えば、眼鏡をかけるという動作を何種類ものテンポで正確にトレースする)、2時間あまりの間は全然ボーっとできない。
 檻同士の間隔は3メートルくらい離れて観客はその間を自由に行き来していて、本番中はずうっと孤独な作業になる。普通のコンサートと違って演奏の最中に前で人がうろうろしたり、話しかけてきたり(こちらは答えられない)、子供に群がられたりといつもと違った集中力が必要になってくる。おまけに今回はちょっと長めの17回公演だったので、その間の持久力が絶対条件でこれが個人的には結構きつかった。夜の公演だったので昼は自由にほかの仕事を入れたりしていたんだけれど、3週間劇場までの往復をしているとへとへとになってほかの事はあまり進まなかった。この期間に新しくC管を買ったんだけれど結局ほとんど吹かずじまいだった。
 個人的に難しかったのはやはりテクストの発音。北の地方の訛り、ベトナム系フランス人の訛り、古語などがあってしかもかなり早口なため、どうしても上手く発音できない単語があって、これは普通の現代曲のパッセージを練習するよりも苦労した。月並みな感想だけれども、これだけ言語の発音システムが違う民族の楽器の(特に金管楽器の)音に対する感覚というのは微妙なところで結構違うのかもしれない。
 なにはともあれ、結構疲れたなりに楽しい3週間だった。明日からまた同じ事やれと言われたらちょっときついけど。

2003年4月12日

コンチェルト(~3月5日)

 ガウデアムスのコンクールから帰ってきて引き続きコンチェルトの演奏会。これは11月のというコンクールの受賞記念演奏会。今日はもうお馴染みというか、ヴォーン・ウィリアムズのコンチェルト。ガウデアムスで現代曲ばかりをやった後の気持ちの切り替えがなかなか上手くいかない。練習は実質一日で、オーケストラの(特に)弦パートはとても弾きにくく書いてあるので(これはどこで誰に聞いても一様に返ってくる答え)、なかなか大変なセッションだった。
 最近はコンチェルトの訳語としては「協奏曲」というのが定着しているけれども、実際ソリストの立場からすると「競奏曲」といったほうが正しいように思う。まぁあくまで個人の印象なんですが、少なくとも「協調」という要素よりは「競争」という要素が強いと感じる。とにかくピアノ伴奏のヴァージョンとはまるで違う曲を吹いている感すらある。これはオーケストラの気質とかレヴェルとかオーケストレーションとかという問題というよりも寧ろ「一対多」の構図からくるもので、指揮者を含む何十人の演奏家相手に「俺はここをこう吹く」という意思表示を常に強く示さなければならない、というスタンスはピアノ伴奏のときのデュオ的な駆け引きとは全然種類の違うものである。というわけで、「強い意思表示」という部分と「曲の完成度」(つまりある程度「保険」をかけた吹き方)という相反する部分のバランス取りというのはかなり難しい。もちろんボーっとしたノーミスのコンチェルトなんて面白くもなんともないんだけれど。
 もうひとつ今回のセッションで面白かった、というか今後の精進の対象になることは、「後ろのオーケストラがトゥッティで鳴っているときにソロパートをどうやって浮き上がらせるか」という問題で、日頃は同じ状況下では寧ろ一体化することを目的としているために所々の部分でかなり戸惑った。大きめに吹く、というのはもちろんひとつの解決法ではあるんだけれど、それにしたって限度というものがあるし、どうしたものかと思っていたんだけれど、ジェネラル(ゲネプロ)の時に聞いてくれたプロフが言うには「後ろのオーケストラの響きを聴いて、その響きの隙間を狙ってそこに入り込むこと」。理屈としては判るけれども、なかなか難しいですよね、これは。もう少し判りやすく考えれば、オーケストラが鳴っている(或いは客席でこう鳴っているだろう)時にその音響を客観的に聞いて、そこに自分のパートがどういう感じで入ってくるべきなのかを具体的に想像し、それに近いサウンドのアプローチをする、ということなんだろうけど。色々考えて本番でもやってみたけれど、上手くいくところも確かにあった。一般的に言ってピアノやヴァイオリンといった楽器に比べるとテューバという楽器は(コンチェルトでは)埋もれやすい傾向を持った楽器なので、この点は今後大いに考えるべきだと思う。
 なんだかんだあったものの、本番はとても楽しくできた。オーケストラも熱演だったし、個人的にもミスはあったもののやりたいことはだいぶできたと思う。
 次は「一対多」から一転して「孤独」、動物園の音楽の仕事の話。