2003年12月30日

一年の計は年末にあり

 一月一日からつけた日記が長く続かないのは、「一月一日」という特殊性に拠った決断だからだ、といったような話をどこかで読んだような気がするので(うろ覚えすぎ)、12月30日火曜日という即物的な今日から再び日記をつけ始める。
 前回日本のオーディションに行くに当たって2本持っていく事がかなりしんどかったので、暫く学校のC管(同モデル)を借りて、自分のは日本に置いておいて、という段取りだったのだが、帰ってきた途端学校が休みに入ってしまい楽器が借りれなかった。しょうがないので年明けまでは、C管に関する練習はマウスピースのみ、という事になる。ボボのメソードのはじめの部分、それからいくつかのオケスタの嫌な部分をグリッサンドで均していく、という練習。

 さて、一年の計。個人的に抱えている問題は多々あるけれど、今年は「スラー」を徹底的にやっていきたい。この2年間で音を点「デタッシェ」で並べていく事にはあまり苦痛を感じなくなったけれども、同じ事をすべてスラーで、という事になると特定の組み合わせでどうしてもすんなりといかない。
ある固まった音形を、どのような音域でも、音量でも、ムラ無く繋いでいくこと。これを全体の目標にする。
 使う素材はLowell LITTLEのEmbouchure Builder、Roger BOBOのMastering the tuba。アンブシュア・ビルダーのほうは基本的な奏法を徹底化するため、まずは頭から9番までをじっくりと。ボボのほうは関連する項目を日替わりで。リップスラー関連は5つのエクササイズのヴァリエーションを合わせて31個なので、各エクササイズから一つずつ計5個を毎日こなすと一ヶ月で150、1つの練習が約5回まわる計算になる。2ヶ月間計10回こなしてみて、その後どういう風に持っていくかを再考する事にする。
アンブシュアビルダーのほうは一ヶ月間30回やった後で更に先に進むかどうかを判断する。
 これらの練習はC管ならin C、F管ならin Fで行う事を原則とする。この手の練習は慣れてくればそれだけ時間が短縮されてくる筈。全体の練習時間にかかるウェイトが30%程度が維持される事が望まれる(でないと普通の仕事の準備などとの兼ね合いで続けられない)。
 以上が年間を通した長期的目標。

半年間を通しての中期的目標からは各楽器ごとで。
 C 管。何はともあれ、基礎的なテクニックは全て再確認の必要性あり。アーバン、ボボのメトードを使っていく。ブレスコントロールに関してはC管を使って練習するのが一番効果的。オケスタを数多く当たる。今の段階では全ての練習においてシンプルなものを確実にこなす事を基本とする事。
 F管。ウェイトとしてはソロの曲を吹く事が多いので、その時々に必要なテクニックを予備段階として練習に取り入れる。ジャズのクラスでもこちらを使うので、アルペジオ、スケールを通して楽器を使った和声感をキチンと見につけていく事。

一ヶ月毎の短期目標。
 C管。上掲リップスラーの練習と11月から引き続きlow tone studies。アーバンの跳躍の練習。
 F 管。今月はクロード・バリフのソロ曲の本番があるので、必然的にそこにウェイトをかけた練習。予備段階の練習として四半音音階の練習。ボボのメトードからウォームアップ、オクターヴの練習、リップトリルの練習。離れたインターヴァルのコントロールとダイナミックスの練習。後二つはヴァリエーションで進めるだけ進む。

一週間毎の超短期目標。(~1/3)
 C管。冒頭にあるように楽器が無いので、マウスピースのみ。ボボの最初にあるマウスピース用のエチュードと、来月のロメオとジュリエットのオケスタを。息をたくさん使う事に留意。毎日やる事。

 F 管。前掲のメトード練習、四半音音階。バリフは譜読みの段階なので、4分の1以上に落としたテンポから全体を通して少しずつあげていく。この段階では全体の構成をしっかり把握するため細かい装飾音符群は力技で通し、出来なかった音形は後で取り出してキチンと見直す。難しいところは特に暗譜していく事。目標テンポは各指定テンポの60%。四半音音階は楽譜上の音の指使いを記憶。アルペジオは4分音符=60、8分音符、サークル・オブ・5で属7のコード。

サボりっぱなしのセルパンだが、こちらは何をどういった方向に進めるべきか、いまいち考えがまとまらない為、年末の宿題。

2003年12月28日

2003年度上半期総括(7)その他の演奏会とまとめ

 時間は前後するけど11月、12月の他の演奏会の話。11月にはヴィオラの友人と二人のデュオコンサート。以前JARRELLのAssonance IV、KNOXのAvec la prochaine mareée...を一緒にやったことがある友人との一時間のプログラムで、以前から一緒にやりたいね、という話だったので実現できて嬉しい。
プログラムは
BACH, J.S./Suite No.1 (va)
JARRELL, Michael/Assonance IV (duo)
JHONSON, Tom/Monologue (tub)
REBOTIER, Jaques/Pourquoi tu m'aimes plus? (tub)
KNOX, Garth Avec/la prochaine mareée... (duo)
というもの。オーディション準備の最中だったのであまりきついプログラムは組めなかったので、ソロは以前からよく取り上げているテアトリカルな2曲。当日はボジョレー・ヌーヴォーの解禁日だったのにも拘らず、結構お客さんも多かった(本気で心配してたんだけど)。ホールが全く響かないところだったので、響きがポイントになるジャレルの曲はちょっと不満足だったけれど、ノックスの曲は上手くいっていたと思う。個人的には全体に慣れた曲が多かったことが逆に小さい部分を疎かにした準備になってしまったことが反省点。ジョンソンの曲は語りの部分は以前より上手くいったと思う。
 12月は2つのコンサート。一つは通っているジャズ科のビックバンドの演奏会。パートは4番トロンボーンのものをそのまま吹くので、結構動くところもあるし、セクションワークがとても楽しかった。オーディションの直前ということもあって悪いとは思いつつちょっと手抜きして(事前準備なしで)やってやろうと思っていたんだけれど、一週間前に突然アドリヴが回ってくることになり精神的大混乱。F7の一発もの、という有り難い配慮だったんだけれど、周りはキチンとアドリヴが取れる人ばっかりでもう恥ずかしいやらなにやら。舐めてかかると酷い目にあう、よい一例。
 もう一つはEnsemble Ictusのトラ。こちらは一曲だけだったんだけれど、日本に発つ前日の仕事で、しかも風邪で体調を崩しながらだったので結構きつかった。曲はHaasの "...Einklang freier Wesen..."。10楽器の為のもので、室内オケの編成のテューバパートにしては結構動くものだったけれど、問題だったのは吹きながらミュートをつけたり、外したりという場面が多々あったこと。当然ミュートをかけると音程は上がるので、その都度突っ込みながらトリガーを引く、外しながらトリガーをあげると言うことになってかなり忙しいことに。知ってて書いたんならまあいいけど。よかないか。

 というようなバタバタとした上半期だったわけですが、6ヶ月のスパンで見るならば、ある程度時間をかけたものにはそれなりの効果があったように思う。その都度その都度の練習法の如何に関しては、集中力、能率の面から言えば改善の余地はあるけれど、もう一回同じスケジュールをこなせ、と言われればこれと違った劇的な上達が見込まれる方法があったか、と言われるとそうではないだろう。結構いっぱいいっぱいやったと思う。
 年末でもあるし、日誌のはじめ辺りからの今までを振り返れば、当初目的としていた一週間~一ヶ月~半年~一年間といった枠の中での目標設定と到達判断がかなり曖昧になってきている事は重大な反省点。何が、どの期間にどれくらい出来るようになったか、また出来ていないか、ということをもっと計画的にやっていく事。つまりは日誌をもっとマメにつけていくことが重要、ということを踏まえてこれからの練習に励むということで、ええと、まとめとしたいと思います。なんだか某国の道路公団民営化の答弁みたいですが、こちらは自分を裏切らないで頑張ります。

2003年12月27日

2003年度上半期総括(6)オーディション準備

 作曲科の卒業試験の演奏会終了からN響のオーディション準備に入る。これから本番までにある演奏会は3つなので、その演奏会の準備と上手くペース配分しなければならない。
 正直な話フランスに来てからというもの僕はC管の経験があまり無いというバランスの悪い活動をしていたので、これから一ヵ月半の間は基礎の再確認と応用を同時にこなすことになる。練習メニューはボボの教則本、アンブシュアビルダー、ロウトーンスタディーズからリップスラーを中心に組んで、オケスタ、ワイルダーのソナタを簡単な形から応用していくことに(前回のジャズの練習の応用)。F管は曲のみの練習。これだけのメニューでも一通りこなすのには大体6時間くらいかかる。本当はこういう突貫工事で基礎を作っていくのは建物と同じでよくないと思うのだけれど、今回はしょうがないですね。兎も角もあせる気持ちは抑えて、基礎を毎日着実にこなす。焦って曲だけとか、オケスタだけというメニューを組んでしまうと最終的にもう一度全部崩すことにもなり兼ねない。
 今回基礎以外で割りとしつこく練習した方法はまず問題が起こったときにマウスピースに戻すこと。例の爪楊枝を使った練習以外に、問題のある箇所をマウスピースだけでグリッサンドで吹いてみる。大体においてこの場合複数の音の間のどこかにポジションなり何なりの「ブレーク」が存在する。それをグリッサンドを使うことによっていわば地ならししていく訳だけれど、この時に息をきちんと入れることを忘れない。これは本来もう少し時間をかけて丁寧に、しつこくやるべき。
 もう一点、ブレスに関して、これはたしかカルバートソンの講習会に行ったときに紹介されていた方法だと思うのだけれど、楽譜の本来吹く部分(演奏する部分)でブレスを取り、ブレスをとる部分で息を吐き出す方法。つまりブレスのネガポジ反転ですが、これはフレーズでどの程度息を使っていくか、また必要かと言った事が非常に捉え易く、またブレス自体のサイクルも大きくなるよい練習法。
 原則的には以上の点を踏まえて準備した。結果は一次敗退だったけれども、この練習の過程で得られたものは個人的に凄く大きかった。
1.バランスの取れた練習。考え方。この一年間を振り返ると本当に殆どソロの現代音楽にかかりっきりで、その間の練習は(気をつけていたんだけれども)かなりバランスを崩していたと思う。それは音階をやるとか、ロングトーンをやると言った方法論のレヴェルではなく、ブレスの取り方、音の出し方、あるダイナミックスに適した吹き方、といったものがどうしてもアンバランスなある片方に寄っていってしまっていることが今回の準備で非常に実感した。勿論、この「メーターの揺れた」状態はある程度想像はしていたのだけれど、その都度逆の方向にもきちんとメーターを揺らす、そう言った振幅の拡げ方をしないとなかなかバランスよく上達しないだろう。
2.時間の取り方。この日誌を始めた当初から気をつけていたことの一つとして、「効率のよい」練習法を目指す、といった事があったのだけれども、今回、結構仕事をキャンセルして練習に集中できる期間を作った。時間たっぷりにゆったりと練習する、という状況を作ること、作れることは幸運でもありまたとても重要なことだけれど、その時間を無駄にゆったり使う傾向がやや見られた。一日10時間くらい練習したこともあったけれど、前後の日とのスパンを考えればもっと効率的に練習して精神的に落ち着ける時間を増やすこと。短期なら兎も角、長いスパンでは逆に精神的に苦痛になる。休むときに休みっ、と決断できるとよいのだけれど。
3.ジャズ科のところで書いたことの実践。今読み返すと本当に当たり前そうなことを書いているけれど、今回の準備を通じてそのどれもを今まで中途半端にやってきていたことを痛感した。特に、出来ないことの上に出来ない事を重ねていく結果、やっぱり出来ない、と言った無駄なことをいろんな部分でやっていたと思う。これは出来る、これは出来ない、という判断のラインをもっと厳しくして、出来ない部分はもっと簡略化して徹底的に練習すべき。結果的には近道。
4.練習法とは違うけれども、課題曲だったワイルダーの個人的再発見。今までワイルダーと言えば「エフィー組曲の人ね」(注:象のエフィーを題材にしたやや絵画的な組曲。いい曲です)と言うなんというか結構軽い感じのシンパシーを抱いていたのだけれど、今回練習したソナタはかなり深い曲だったと思う。昔レコードで聴いて「よく判んないや」といった印象のまま今日に至っていたのだが、そのよく判らなかった所が非常にデリケートに作られていて、音楽的に凄く難しく、あれこれ考えるのが楽しかった。今のところ個人的にブームです。ソナタの2番も買いました。よく考えるとテューバのソナタを2曲書いてる人って珍しいですね(ちなみに組曲は確か6曲書いているはず)。
 長くなってきたので合間の演奏会に関しては次の日誌に。
P.S. 掲示板にも書きましたがテューバを2つ抱えて飛行機で移動するのはそれだけで結構なイヴェントでした。今回行きの空港までは友人の普通車で4人+ハードケース2つ+ソフトケース2つという暴挙に出て死にかけました。ふう。でも一番悩んだのは成田~都内。車がないと途端移動が至難の業になってきます。

2003年12月26日

2003年度上半期総括(5)初演

 10月15日にテューバとライヴエレクトロニクスの新曲の初演。友人鈴木純明の「Le bourdon en branle」。初演の面白さ、と言うか醍醐味のひとつとして、もらった楽譜のコンセプトを作曲者本人と打ち合わせられること、そして場合によってはこちらからより効果的な方法を助言できることである。こういった場合、「楽譜どおりだと全く出来ない」、「長期的に練習すれば或いは出来るかもしれない」、「やや効果は劣るが他の方法がより確実である」という辺りの判断の落としどころが非常に難しい。今回はこちらのスケジュールの関係もあって、本当に本番直前まで色々とやっていた。
 エレクトロの部分は今回ペダルで踏んでプログラムをチェンジする方法を取ったので、100箇所以上あるポイントを間違いなく踏んでいくことも練習のひとつ。これは結構きつかった。
 テューバの部分の練習は今までの方法で特に付け加えたことはなかったのだが、今回ちょっと変わっていたのは、エレクトロの部分は初めての合わせまでどういったものになるのか見当がつかなかった部分。ある程度テューバのパートだけで構成を固めていたのだが、合わせてみると想像していたものとまるっきり違っていたので、そういった部分の面白さがあった。オケの曲の初演だとパート譜だけもらうことが多いのでこういったことはよくあるけれど、ソロだとあんまり無いですよね。
 追記。今回の曲は四半音がかなり多用されていたのだが、練習に当たってクラヴィノーヴァを導入。これを使うと四半音が容易に得られるので、耳で覚えていく時の効率が凄くあがる。四半音の指使いは練習法までサイトにアップしたにも拘らずサボっていたので結構梃子摺った。これも普通の音階と同じく、恒常的に練習しなければ。

 引き続き18日に学校の作曲科のクラスの卒業試験の演奏会。こちらは室内オケの3曲。いつも思うんだけれど、作曲科や指揮科の試験は何らかの形で演奏者の意見も拾うべきだと思う。確かに結果として出てきた音がよけりゃそれでいいのかもしれないけれど、中には楽器のことをまるきり知らなかったり、パート譜を書くときの約束事をまるきり無視したりしている人もいて、その辺りがきちんと出来ている人はそれなりにきちんと評価すべき。

P.S. タイトルの「ブルドン・アン・ブランル」。ブランルはスザートの曲などでもお馴染みの中世舞曲の一種の意の他に「震える、振動する」の意味がある。転じて、ええと、オナニーするという意味もあり(と言うかフランス人だとまずこちらが浮かぶらしい)。本番最中でも客席のオバチャン達がくすくす笑っていました。

2003年12月25日

2003年度上半期総括(4)ジャズ科

 前々回ちょっと書いたけれども、ジャズ科に入った。と言っても本当に初歩の初歩から始めるビギナー向けのクラス。ビッグバンドは何回かのって楽しかったんだけれど、ジャズのインプロヴィゼーションは全く未知の領域だった。今のところもう人に聞かせられないひどい即興だけれど、こちらで言われている練習の仕方というのがクラシックでも非常に重要な考えが多い。
1.「必ず」メトロノームを使う。
 メトロノームは裏拍で鳴らす。ジャズではリズムのキープは鉄則だけれど、同じ方法で今までのクラシックの曲を練習してみると今までのリズムの取り方の精度がかなり荒いことに気づかされる。
2.楽譜を追わない。覚える。
 これもちょっと考えたら当たり前(じゃなきゃアドリヴなんかできない)ですが、リズム、音価、音程、強度(f,p)、フレージング、色々な要素が一緒になって出てきて音楽になるはずなのに、楽譜を追ってると分断されていることが多い。
3.簡単な要素から少しずつ難しく。
 例えばアドリヴを学んでいく場合、曲のコード進行をアルペジオにするところから始めることが多いわけだけれど、まず、シンプルなものを「徹底的に」自分のものにすること。それを一段階ずつ複雑にしていく。今までの自分の練習の仕方だと、出来ないところを何回も繰り返すことも多々あった。
4.和声
 管楽器(若しくは単旋律楽器)の場合、どうしても自分のパートだけを追いがちで、結果的にそこは何の和音が鳴っていて次にどの和音に行くのかという事を把握していることがあまりない。ジャズでは必須のスキルだけれども、自分に照らし合わせると今まで結構手薄な領域。

 こういう風に列挙すると凄く単純なようだが、そのどれも自分がちゃんとやってきたか、と問われるとかなり自信がない。兎にも角にも早速実践あるのみ。

2003年12月24日

2003年度上半期総括(3)Concours NICATI 2003

 入学試験4日後にコンクール。もう無謀というか、馬鹿げてます。しかも次回詳述する新曲の練習の合間を縫っていたので、3ヶ月経った今ではもう何をどういう順番でやっていたのか、いまいちはっきりしないんだけれど。ただ、テューバがエントリーできるコンクールというものが世の中に絶対的に少ないため、このような強行軍はある程度止むを得ないということはある。
 このコンクールはスイスにあるビエンヌという町で行われた現代音楽演奏のコンクール。今回はソロのみということで、用意した曲は
Jaques DEMIERRE / The case of Mr. V pour tuba solo (1985) 7 min.
Yan MARESZ / Titube pour tuba solo (2001) 8 min.
Leo BACHMANN / Palette of Sounds(1993-2000) Out of Shape 4 min.
Mauricio KAGEL / Mirum pour tuba solo (1965) 15 min.
Krzystof PENDERECKI / Capriccio pour tuba solo (1980) 4 min.
Jaques REBOTIER / Pourqoui tu m’aimes plus ? pour tuba solo (1991) 3 min.
Gérard BUQUET / Voix Captives pour tuba solo et bande magnétique (1987) 15 min.
の7 曲。規定にあるスイス人の作曲家の2曲以外は既に演奏済み。練習は主に新曲の譜読み(DEMIERRE)。このコンクール、一次ではテアトリカルな曲はダメ、即興もダメということで、レパートリー的にかなり不利な状況に(REBOTIER、KAGELが使えない)。一次ではDEMIERRE、MARESZ の2曲だったんだけれど、見事一次敗退。
 演奏としては個人的にある程度満足できる出来だったけれど、他の人の演奏を聴いてみればこの結果は納得。この手のコンクールは演奏レヴェルは勿論のこと、レパートリーが大きなポイントになるのだが、残った人はその両方が上手くいっていた。結果の後審査員に講評を聞きにいったんだけれども、口を揃えてレパートリー(DEMIERRE)がつまらなかった、との事。MARESZがもしつまらなく聴こえていたとすればこれはもう間違いなく僕の責任で、そこは深く反省するわけだけれども、もう一曲のDEMIERREについてははっきりと作曲者の責任を糾弾したい。
 もともとこの手のコンクールは、開催国の曲をレパートリーに入れることを規定してある場合がほとんどである。その国の現代音楽の作曲者のを知るのによい機会だし、補助金の関係もあるのだろう。このことに関しては僕も特に異論はないが、例えばテューバのようなマイナーな楽器の場合、調べてみたら入手可能な曲は上記2曲(DEMIERRE、BACHMANN)だけだったという事だって多々ある。こうなると選ぶもなにもないし、そして些か諦めながらも文句はないわけだが、その曲がキチンとした曲でなかったら、演奏者としては手の打ちようがなくなる。BACHMANNのほうは楽譜というより即興のインストラクションだったので(これを作曲として売ることにもちょっと疑問があるけれど)、それなりに自分で工夫することはできたかもしれない。しかしDEMIERREの方はもうハッキリといってスケッチ以上の何物でもなく、こういった曲を目の前に持ってこられても溜息以外の何も出てこない。もちろん、世の中の多くの曲はコンクールで効果的に聴こえることを目的として書かれるわけでは十分に承知しているけれど、本人が意図したことがその楽器できちんと出来るのかどうかといった検証が全く、本当に全く成されていない曲を出版社が売り物としてリストに載せるのはどうなのだろうか?
 このサイトは基本的に個人を攻撃するようなことを極力避けるようにしているけれども、このことだけはどうしても声を大にして(テキスト表示を大にして)言いたかった。例外だと思って下さい。尚、「演奏技法上不可能な曲=ダメな曲」と言っている訳でもないです。この辺りをテキストで説明するのは難しいですね。演奏するなり、聴くなりすればそのラインは一発で判ると思うんですが。いずれにせよ、テューバの楽譜のような世にあまり流通しない楽譜の場合、編成だけで中身を見れない状況で買わざるを得ない場面が多々あります。そうなるとこういった場面に出くわすことが確率的に多くなる。なんだか泥沼ですが。

P.S. ビエンヌ(Bienne)は手ごろな大きさの町で、とても感じのよい所だった。楽器なしだととても寛げそうです。

2003年12月23日

2003年度上半期総括(2)懲りもせず入試

 9月はこちらでは年度始め。外国人には鬱陶しい季節。滞在許可証の更新がちょうどこの時期に当たることが多い。フランスでは3ヶ月を越えて滞在する場合には滞在許可証の申請が必要なのだが、学生、会社員等まっとうな(?)身分での滞在ならともかく(これでも十分に煩雑なのだけれど)、「どこにも所属しないで一発仕事の演奏だけでやってます」という不逞の輩にはそれに見合った滞在許可証が存在しない。フリーランスでもコンスタントに楽器を教えることが大きな割合を占める人の場合にはそれなりの方法があるらしいけれども、チューバじゃねぇ。。。とにかく色々とややこしくて、書き始めるとそれだけでひとつサイトができるくらいなのでここでは割愛。何はともあれ、今年もどこかで学生の身分を確保しておかないと仕事ができない、しかし確保すると忙しくて仕事ができないというもう訳わからない状況になるわけです。
 そんなこんなもあって、今年は去年まで在籍していたパリ国立高等音楽院第3課程の室内楽科をテューバ、ピアノデュオで受けることになったわけです。もちろん、結構厳しい現代音楽レパートリーをきちんと一緒にやっていけるピアニストとデュオを組めたことも大きな要因。

用意した曲は
NODAIRA, Ichiro / Arabesque V
HINDEMITH, Paul / Sonate
GLOBOKAR, Vinko / Juriritubaïoka
MADSEN, Trygve / Sonata
PIAZZOLLA, Astor / Michelangelo 70
KELLAWAY, Roger / The Westwood Song
ORTIZ, Diego / O felici occhi miei

かなり現代に偏っているけれど、最後のOrtizはセルパン、クラヴサンのルネサンスの曲(原曲はガンバ)。今回の目標は今までやった曲をもう一段階レヴェルアップさせること、それから短期間で2曲(GLOBOKAR、KELLAWAY)をきちんと音楽の部分まで仕上げること。
 練習ではこの夏東京で聞いたバーズヴィックの公開講座で紹介されていた「爪楊枝」を使った練習を取り入れる。これは単にマウスピースとマウスパイプの間に爪楊枝を挟んで空気を逃がすスペースを作る「簡易BERP」なのだけれど、振動のいくらかはそのまま楽器に入っていくので、前回の日誌の「頭の中の音程と唇の振動のラグ」を発見、矯正するのが非常に容易。お勧めの練習です。
 グロボカールは流石に本人がトロンボーン奏者だけのことはあって、演奏上の不可能な問題が全然なかったので、(苦労したけど)思いのほか早く仕上がった。ギリギリだったけど(じゃあ、間に合わない予定だったとかどうとかはこの際知らない振りしてください)。
 一次の試験でアラベスクを選んだのでこの曲の合わせがウェイトとして大きかったのだが、その甲斐あってかこれは今回一番上手くいったと思う。セルパンは他のプログラムに時間を取られたせいもあってあまり満足できなかった。この楽器はちょっとたまに使います、というレヴェルでは人前に出すのが至難の業であることを改めて痛感。もう少し準備に頭を使うべき。
 結果として合格できて一安心、だったんだけれどよく考えるとこれ以上レパートリーがないことが判明。これからの大きな課題。当面は上記のレパートリーをもっと深くしていくことに。

P.S. この他の学校のjazz科にも入学。しかしながら結局滞在許可証はひどい嫌がらせにあった挙句、11月初旬まで貰えなかった。

2003年12月22日

2003年度上半期総括(1)秋吉台の夏2003

半年間も滞っていると最早なんの言い訳もなく、「日記」の体裁から大きく逸脱してしまっているけれど、ようやく更新三点セット(時間、パソコン、パスワード)が整ったので、大急ぎで8月以降のまとめ。
 今年で3回目の出演になる山口県秋吉台国際芸術村での現代音楽セミナー。今年は例年通り作曲者向けの楽器解説と野平一郎のアラベスク、ビュッケのvoix captives、即興の演奏。
 セミナー前に10日間程完全休養していたので、調子が戻ってくるのに少し時間がかかる。
 野平、ビュッケともに今回が初めての曲ではないので、全体を通しての細かい調整が焦点になるのだが、両曲ともテクニカル的には難曲なので確実性をつけるという事も大きな課題となる。
 結論から言うと、確実性の問題は今回満足できる程達成できなかった。「音を外す」という行為の中には、
A.頭の中で音程が正確に鳴っていない。
B.頭の中で鳴っている音程と実際に振動している唇の間に時間的にも音程的にもラグがある。
C.前者の要件がクリアされていても必要とされる息が何らかの原因で入っていない。
D.指とのコンビネーションが合っていない。
が含まれていると思うのだが、今回は特にA,Bの2つが大きな問題になっていたと思う。
特に重音奏法が多用されるVoix captivesにおいては、特に不協和音程における響きをきちんと記憶して前もって(その音が吹かれる前に)準備するということが必須条件。これが上手くできないと短9度の重音などは絶対にハマらないのでこの曲の肝である差音、加音の効果が期待できない。この曲は一応吹けるようにはなったけれど、一発聴いて面白さをきちんと伝えられるようになるにはもう一段階底上げする必要がある。
先ほどの「音を外す」という原因についてだが、逆に言うと上のポイントがクリアされていればどう考えても外すわけがないので、以上4件をもっと徹底する必要がある。まあ阿保みたいなロウトーン、ハイトーンは別だけど。
P.S.今年講師で来ていたトロンボーンのBarrie Webbさんとは色々と現代音楽における金管楽器について話せて楽しかったです。彼の演奏したGlobocar(Prestop II)とKrenek(Five pieces)も名演。