2000年10月 6日

ホルスト/吹奏楽のための第1組曲、第2組曲

First Suite for Military Band in E♭major Op. 28/1 (1909)
Second Suite for Military Band in F major Op. 28/2 (1911)
Gustav Holst (1874-1934)

吹奏楽のための第1組曲 変ホ長調 作品28の1
吹奏楽のための第2組曲 へ長調 作品28の2
グスタフ・ホルスト

 管弦楽組曲『惑星』(1916)がよく知られているイギリスの作曲家グスタフ・ホルストの吹奏楽作品。吹奏楽曲のレパートリーとして非常に重要な位置を占めている。ホルストはこの他に吹奏楽作品として『ハマースミス』(1930)を作曲している。2曲ともに作曲の動機、初演などの資料は残っていないが、彼自身トロンボーン奏者として活動していた時期があり、吹奏楽器の取り扱いに通暁していたことは、この2曲を書く際にあたって大いに役立ったと考えられる。
 『第1組曲』は3曲によって構成される。第1曲《シャコンヌ》は冒頭低音部によって奏される主題が16の異なった表現により呈示される。中間部ではこのテーマは反行型で演奏される。続く第2曲《間奏曲》はABA形式をとっているが、2つの部分のテーマはいずれも《シャコンヌ》のテーマから作られている。イギリスの伝統的なクイック・マーチである第3曲《行進曲》においても導入部、第2主題に《シャコンヌ》からの引用が見られ、全曲を通しての統一感を作り出している。ホルストは演奏会用バンドをクラシック音楽の演奏媒体として使うことを目指し、この作品はそういった方向に向けての第1歩であるとみることが出来るだろう。
 ホルストの功績は作曲のみならず、同時代の作曲家ラルフ・ヴォーン=ウィリアムズ(1872-1958)とともにイギリス民俗音楽の蒐集にあたった点にもある。『第1組曲』の2年後に作曲された『第2組曲』においてその成果を垣間見ることが出来る。第1曲《行進曲》ではモリス・ダンス(Morris Dance)、スワンシー・タウン(Swansea Town)、クラウディ・バンクス(Claudy Banks)、第2曲《無言歌》ではコーンウォールの「私は私の愛を愛す」(I'll love my Love)、第3曲《鍛冶屋の歌》はハンプシャーの民謡、第4曲《ダーガソンの幻想曲》では16世紀の田舎の踊りであるダーガソン(Dargason)の中によく知られるグリーンスリーブス(Green Sleaves)が盛り込まれている。形式としては、行進曲で始まり変奏曲で終わるという、『第1組曲』と逆の構成が取られている。ホルストは後に合唱曲『6つの民謡によるコラール』作品36のb(1916)にこの組曲中の3曲の民謡を、弦楽合奏曲『セント・ポール組曲』作品29の2(1913)では第4曲をそのまま引用している。
 吹奏楽曲で民謡を積極的に用いたものとして、前述のヴォーン=ウィリアムズによる『イギリス民謡組曲』(1923)、オーストラリア生まれの作曲家でピアニストとしても有名であったパーシー・グレンジャー(1882-1961)の『リンカーンシャーの花束』(1937)などが挙げられるが、この『第2組曲』はそれらの先駆的作品として高く評価することが出来るだろう。

(今までいろんな機会に書いた曲目解説。自分の演奏会のものの他、依頼された物も有りますので、テューバ以外の曲もあります。以前この類の情報を収集するのが結構面倒くさかったため、何かの役に立てばと思いここに掲載します。転載自由。)