2000年10月 1日

バーンスタイン/ハリル

Halil (1981)
Leonard Bernstein (1918-1990)

ハリル
レオナルド・バーンスタイン

 まずはスコア冒頭の作曲者自身の言葉を引用しよう。


 ―《ハリル》は「ヤーディンと戦死した彼の同胞達に」捧げられている。ヤーディン・タネンバウム Yadin Tanenbaumは1973年のイスラエル戦争で戦死した才能豊かな当時19歳のイスラエルのフルート奏者だった。(ヘブライ語でフルートを意味する)《ハリル》は形式的観点からは私がこれまで書いてきたどの作品とも違っているが、また調性的な力と無調的な力との闘争、という点で今までの多くの作品と似通っている。ここでの闘争とは、戦争に伴う闘争であり、戦争の脅威、生に対する圧倒的な願望、芸術と愛の慰め、平和への希望といったものを闘争だと感じているのだ。この曲は言うなれば夜の音楽であり、その冒頭の12音音列から曖昧で全音階的な終止に至るまで、夜のイメージが衝突し合う。希望の夢、悪夢、休息、不眠、夜の恐怖。そして「死の双子の兄弟」である眠りそのもの―

 初演は1981年5月27日、テル・アヴィヴにおいてJ. P. ランパルのフルート、作曲者自身の指揮でのイスラエル・フィルによる。全曲を通じてのモティーフは序奏である冒頭部に示された音列に基づき、大きく分けて四つの部分からなる。変ニ長調による第1提示部、リズミックな第2提示部、打楽器を伴った長大なカデンツァ、そして(ここまで影のように寄り添っていた)アルトフルート、ピッコロを含むオーケストラのみによって奏されるコーダ。前述のように、全音階的なソロ・フルートの2音によって曲は閉じる。
冒頭に挙げたプログラム・ノートを彼は次のような言葉で締めくくっている。

「私はヤーディン・タネンバウムに会った事は一度もないが、彼の精神を知っている。」

(今までいろんな機会に書いた曲目解説。自分の演奏会のものの他、依頼された物も有りますので、テューバ以外の曲もあります。以前この類の情報を収集するのが結構面倒くさかったため、何かの役に立てばと思いここに掲載します。転載自由。)