2003年12月27日

2003年度上半期総括(6)オーディション準備

 作曲科の卒業試験の演奏会終了からN響のオーディション準備に入る。これから本番までにある演奏会は3つなので、その演奏会の準備と上手くペース配分しなければならない。
 正直な話フランスに来てからというもの僕はC管の経験があまり無いというバランスの悪い活動をしていたので、これから一ヵ月半の間は基礎の再確認と応用を同時にこなすことになる。練習メニューはボボの教則本、アンブシュアビルダー、ロウトーンスタディーズからリップスラーを中心に組んで、オケスタ、ワイルダーのソナタを簡単な形から応用していくことに(前回のジャズの練習の応用)。F管は曲のみの練習。これだけのメニューでも一通りこなすのには大体6時間くらいかかる。本当はこういう突貫工事で基礎を作っていくのは建物と同じでよくないと思うのだけれど、今回はしょうがないですね。兎も角もあせる気持ちは抑えて、基礎を毎日着実にこなす。焦って曲だけとか、オケスタだけというメニューを組んでしまうと最終的にもう一度全部崩すことにもなり兼ねない。
 今回基礎以外で割りとしつこく練習した方法はまず問題が起こったときにマウスピースに戻すこと。例の爪楊枝を使った練習以外に、問題のある箇所をマウスピースだけでグリッサンドで吹いてみる。大体においてこの場合複数の音の間のどこかにポジションなり何なりの「ブレーク」が存在する。それをグリッサンドを使うことによっていわば地ならししていく訳だけれど、この時に息をきちんと入れることを忘れない。これは本来もう少し時間をかけて丁寧に、しつこくやるべき。
 もう一点、ブレスに関して、これはたしかカルバートソンの講習会に行ったときに紹介されていた方法だと思うのだけれど、楽譜の本来吹く部分(演奏する部分)でブレスを取り、ブレスをとる部分で息を吐き出す方法。つまりブレスのネガポジ反転ですが、これはフレーズでどの程度息を使っていくか、また必要かと言った事が非常に捉え易く、またブレス自体のサイクルも大きくなるよい練習法。
 原則的には以上の点を踏まえて準備した。結果は一次敗退だったけれども、この練習の過程で得られたものは個人的に凄く大きかった。
1.バランスの取れた練習。考え方。この一年間を振り返ると本当に殆どソロの現代音楽にかかりっきりで、その間の練習は(気をつけていたんだけれども)かなりバランスを崩していたと思う。それは音階をやるとか、ロングトーンをやると言った方法論のレヴェルではなく、ブレスの取り方、音の出し方、あるダイナミックスに適した吹き方、といったものがどうしてもアンバランスなある片方に寄っていってしまっていることが今回の準備で非常に実感した。勿論、この「メーターの揺れた」状態はある程度想像はしていたのだけれど、その都度逆の方向にもきちんとメーターを揺らす、そう言った振幅の拡げ方をしないとなかなかバランスよく上達しないだろう。
2.時間の取り方。この日誌を始めた当初から気をつけていたことの一つとして、「効率のよい」練習法を目指す、といった事があったのだけれども、今回、結構仕事をキャンセルして練習に集中できる期間を作った。時間たっぷりにゆったりと練習する、という状況を作ること、作れることは幸運でもありまたとても重要なことだけれど、その時間を無駄にゆったり使う傾向がやや見られた。一日10時間くらい練習したこともあったけれど、前後の日とのスパンを考えればもっと効率的に練習して精神的に落ち着ける時間を増やすこと。短期なら兎も角、長いスパンでは逆に精神的に苦痛になる。休むときに休みっ、と決断できるとよいのだけれど。
3.ジャズ科のところで書いたことの実践。今読み返すと本当に当たり前そうなことを書いているけれど、今回の準備を通じてそのどれもを今まで中途半端にやってきていたことを痛感した。特に、出来ないことの上に出来ない事を重ねていく結果、やっぱり出来ない、と言った無駄なことをいろんな部分でやっていたと思う。これは出来る、これは出来ない、という判断のラインをもっと厳しくして、出来ない部分はもっと簡略化して徹底的に練習すべき。結果的には近道。
4.練習法とは違うけれども、課題曲だったワイルダーの個人的再発見。今までワイルダーと言えば「エフィー組曲の人ね」(注:象のエフィーを題材にしたやや絵画的な組曲。いい曲です)と言うなんというか結構軽い感じのシンパシーを抱いていたのだけれど、今回練習したソナタはかなり深い曲だったと思う。昔レコードで聴いて「よく判んないや」といった印象のまま今日に至っていたのだが、そのよく判らなかった所が非常にデリケートに作られていて、音楽的に凄く難しく、あれこれ考えるのが楽しかった。今のところ個人的にブームです。ソナタの2番も買いました。よく考えるとテューバのソナタを2曲書いてる人って珍しいですね(ちなみに組曲は確か6曲書いているはず)。
 長くなってきたので合間の演奏会に関しては次の日誌に。
P.S. 掲示板にも書きましたがテューバを2つ抱えて飛行機で移動するのはそれだけで結構なイヴェントでした。今回行きの空港までは友人の普通車で4人+ハードケース2つ+ソフトケース2つという暴挙に出て死にかけました。ふう。でも一番悩んだのは成田~都内。車がないと途端移動が至難の業になってきます。

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