2004年2月 2日

マスタークラス:デイブ・リーバーマン

 2月2日は10区の区立音楽院でジャズのサクソフォニスト、デイブ・リーバーマン(Dave Lieberman)の公開講座。午前中は前期のペズィエのマスタークラスで、はしごは結構辛かったんだけれども、非常に興味深い講座だった。カルテットを例にして、ソロ、ドラム、ピアノ、ベースがそれぞれどんな役割を果たしているのか、何に注意しなければいけないのかを説明した後、「どうやってジャズの語法を身につけるのか、教えるのか」という話題に入っていったのだが、これが凄く面白かった。彼はオリエンタルな民族音楽の伝承の例を挙げて、語法というのは学ぶものではなく、真似ることによってしか会得できない、と説く。確かに誰かのアドリヴを楽語、記譜法を駆使してノーテーションしても、本質的に大事な語法はその間から滑り落ちてしまう。我々が語法を学ぶ際に取りうる唯一の方法は真似る事である。
 ここでジャズを学んでいる人なら必ず避けて通れない耳コピの話になるわけだけれど、
1.イヤートレーニング。アドリブを「徹底的に」歌って、記譜する(これは3に繋がる)。
2.完全に一致するまで自分の楽器で癖から何から、聴こえるものは「徹底的に」コピーする。出来たらテンポや調を変える。
3.それが出来るようになったら1で採譜した楽譜を元にアナリーゼする。
1.2.において「徹底的に」という所と、2.と3.の順序がポイント。彼の今までの生徒がこれをやった例をCDで聴いたのだが、これがもうほんとに「徹底的」で凄かった。
 翻って考えてみると、この「本質的なものの伝承」という事はクラシックだろうと現代音楽だろうと変わらないわけで、確かに一方で初見などのテクニックの重要性はあるにせよ、こういった「伝承」の部分が結構低く考えられているんじゃないかと思ったりもする。
 もう一つ興味を引いたのは彼が演奏について語った中で、
「テンポというのは絶対に一定にはならない。確かに指定のテンポ、曲にあったテンポは存在するけれども、音楽がヴィヴィッドになるとき、演奏はそのテンポを中心とした非常に僅かだけれど、上下に拡がるゾーンの中にある」という言葉。この『ゾーン』はテンポだけでなく、音程、ダイナミクス、アンサンブルの繋がりに至るまでどこにでもあるものだろう。
 最後にもう一つ、彼の言葉。「私がブルースを気に入っているのはブルースの持つ『世界』、『統一性』
だ。ブルースは全ての民族、全ての時代、全ての音楽の中にある。犬でさえブルースを持っていると私は思っているけれどね。」イカス。