2009年5月17日

「ハルモニカ」覚書その1:曲目解説その1


5/28に演奏する「ハルモニカ」ですが、別のエントリーでも書いたように、非常に大規模な作品であるため、一度聴いて全体を把握するのが難しいと感じる方もあるかもしれません。当日ご本人によるレクチャーが演奏前に行われるので、そういった心配はやや軽減されますが、前もって少し知っておきたい、という方のため(と、自分自身の覚書として)、現在入手がやや難しいのですが、CDのブックレットから意訳した形で、こちらに掲載します。


ラッヘンマンの「ハルモニカ」(1981-1983)はザールラント・ラジオによる20世紀音楽フェスティヴァルの委嘱によってを作曲され、テューバ奏者であるリヒャルト・ナハツキに献呈されました(リンクしてあるCDがそのカップリングによる録音です)。
「曲のタイトルは、音素材が混然とした状態を引き起こしている前構成的状態、に由来する」とラッヘンマンは語る。「それは、平行に導かれていたり(ずらされていたり)、或いは音程関係が(音階のように)それぞれで拡大、縮小されたりしているような音響構造のことである。と同時にそれは、数多くのよく知られる”ポピュラー”な  -それらは明白な単一性で、時折紋切り型で美学的には平凡な- 音型、リズム型、広い意味での分散和音といったものが、複合的に投射されることで構造的に中断され、或いは強調されて、しばしば全く知覚できない点まで解体されている、そういった状態であるとも言える。」

…と読んでいくとわかるようなわからないような、そんな感じもあるので、更に意訳します。

 古典的な意味において、作曲とはあるアイデアを構成=コンポジットすることを意味します。ここで言う構成とはメロディであったり、和声であったり、リズム、形式といった要素によって聴き手とそのアイデアを共有するための一手段であり、時代やその作曲家のスタイル、個性といった差異がそこに生じます。

ここで言う「前構成的状態」とは、そういった「曲」としての構成が表立って現れる一歩手前の状態、先程のメロディやリズムといった諸要素が渾然一体となった状態と言っていいでしょう。ブックレットの英語版ではpreformationという言葉が使われていますが、関連する語として「前成説」を挙げておきます(ウィキペディアへのリンク)。
曲全体を通じて、素材として用いられているものは非常にシンプルな音階やリズムや和音ですが、それらは多くの場合変形されています。例えば、ハ長調で始められた音階が途中で変イ長調になってしまったり、ハ長調の長三和音のすぐ傍で変ニ長調の長三和音が鳴っていたり、ある部分が特殊奏法になっていたり、といった事が挙げられます。先程「変形」されていると書きましたが、アイデアとしてはこのような前構成的状況から変形したものがハ長調の音階になる、その一歩手前である、と考えたほうがよいかもしれません。
そういった様々な要素が何重にも重ねられ、時折一部分が強調されることで、ある特殊な音響状態-全くの混沌状態ではあるが、非構成的ではない状態-が現れます。

長くなるので続きます。