2010年3月19日

ドナトーニ「che」覚書

先日のeX.13「フランコ・ドナトーニの初演作品を集めて」@杉並公会堂にお越しいただきました方々、ありがとうございました。

ドナトーニのチューバソロは、その存在は10年くらい前から耳にはしていたのですが、実際に楽譜が手に入ったのは先年のことでした。今回念願叶って日本初演の機会をいただき、大変嬉しく思います。曲のデータを、今後のために備忘録として残しておきます。

フランコ・ドナトーニ(1927-2000) チューバ・ソロのための「チェ」(1997)

彼の作品リストの中では後期に当たるこの曲は、音楽学者のルイージ・ペスタロッツァ Luigi Pestalozza (1928-)の70歳を祝って作曲された(70歳を記念するアンソロジーに掲載されたとの話もあるが、未確認)。題名の「チェ」(che)はアルゼンチン生まれの革命家で、キューバのゲリラ指導者であったチェ・ゲバラに因んだものとのこと。彼の生年が1928年であることがいくらか関係しているかも知れない。
編成は無伴奏のチューバ・ソロで、ゆっくりとしたテンポの第一楽章、はやいテンポの第二楽章の2つからなる。曲中、sord.sucra(暗)、sord. chiara(明)の2つの音色のミュートの指定があるが、同じような例として、ジャチント・シェルシのチューバ(などの低音楽器)のためのソロ「マクノンガン」を挙げておくべきだろう。
第一楽章は極めて静的な楽章。中間部ではモチーフが大きく引き伸ばされる。前述のsord.sucraを装着後、トリルへと発展するフレーズが突如途切れて、「楽器を置くジェスチャーをするのだが、しかし...」という指示と、それに続く音符が示され、多少の演劇的要素が挿入される。
続く第二楽章は大きく分けて4つのセクションから成る。総じて低音域が支配的。第一楽章の終結部に引き続きsord.sucraのままで開始される第一セクションは単音から二音の半音下降グループで形成される。ミュートを外した第二セクションは第一セクションの下降音型が更に強調され、3種類のアーティキュレーションによってグルーピングされる。続く第三セクションは変わって上行音型のアルペジオ。第四セクションはこれまでのセクションが複合的に組み合わされる。終結部ではsord. chiaraが用いられ、デクレッシェンドして終わる。両楽章を通じて所々に「チェ」=「che(ド・シ・ミ)」の音名象徴が織り込まれている。

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